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藤井正明(教授) 分子研リポート2000 | 分子科学研究所

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Academic year: 2018

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研究系及び研究施設の現状 95

電子状態動力学研究部門

藤 井 正 明(教授)

A -1)専門領域:物理化学、分子分光学

A -2)研究課題:

a) 赤外−紫外二重共鳴分光法による分子・クラスターの構造とその動的挙動 b)イオン化検出赤外分光法による孤立分子・クラスターの高振動状態の研究 c) パルス電場イオン化光電子分光法による分子カチオンの振動分光 d)2波長分光法を用いる超解像レーザー蛍光顕微法の研究

A -3)研究活動の概略と主な成果

a) 溶質・溶媒分子で構成される溶媒和クラスターは凝集相のミクロなモデルであり、その構造と反応性は凝集相での 反応・緩和や溶媒効果を分子論的に理解する上で理想的な試料系である。特に水素結合で形成される溶媒和クラス ターは溶液と同じく光励起プロトン移動反応をを起こすが、反応活性にはクラスターサイズ依存性が有ることが知 られている。たとえば1−ナフトール水和クラスターの場合、水分子を30個以上含むクラスターでクラスター内光 励起プロトン移動反応を起こす事が知られている。このようなサイズ依存性はクラスターに特徴的な現象であり、 溶液内反応の初期過程を明らかにする上でも非常に重要である。しかし、このような反応活性なクラスターの構造 はS0、S1共に確定しておらず、構造と反応性の関係は明瞭ではない。そこで本研究では赤外−紫外二重共鳴分光法の 一種である IR D ip分光法を主に水素結合で形成される反応活性な溶媒和クラスターに適用し、基底状態S0、電子励 起状態 S1、及びイオン化状態での赤外スペクトルの観測を行い、振動スペクトル解析、及び ab initio MO 計算(東京 都立大学・橋本健朗助教授との共同研究)との比較からクラスターの構造を明らかにしてきた。

昨年度、反応活性になる大きなクラスターの発生が可能な分子線試料源を有し、かつ大きなマスまで測定できるT OF 型質量分析器を有するクラスター分光装置を製作し、これを用いた実験を本年度行なってきた。1−ナフトールに 関しては、プロトン親和力と分子間結合力や構造の関係を系統的に調べるため、メタノール、エタノール、tert- ブタ ノールを溶媒としたクラスターを生成してIR D ip分光法を適用、赤外スペクトルによる構造決定を行なった。この 結果、小さなクラスターではプロトン親和力とOH振動数(結合力)に良い相関が見られたが、溶媒数が多くなると相 関が悪くなることを明らかにした。これは、大きなクラスターでは溶媒間の立体障害などにより水素結合の配向に ひずみが生じるためと解釈した。さらに、溶媒の極性により光励起反応が大きく異なる系としてカルバゾール溶媒 和クラスターにも着目し、水、メタノール、アセトニトリルを溶媒とするクラスターについてを同様の手段により構 造決定を行なった。この結果、カルバゾールではN-Hと芳香環を面外架橋するリング構造を溶媒ネットワークが形 成することを明らかにした。

この装置が最も威力を発揮したのは反応活性なフェノール・(アンモニア)nクラスターである。従来からこのクラス ターではアンモニア分子の数が4個以上のクラスターで光励起プロトン移動反応が活性になると言われてきたが、 n = 2でもS1の寿命が早い減衰を示すなど整合性の取れない結果が報告されていた。これと対応して、パリ南大のC .

J ouvet らのグループがプロトン移動反応に加えてOHのラジカル開裂による水素原子移動反応が起きている可能性 を指摘したが、これを直接示す結果は得られていなかった。我々は波長可変赤外レーザーと2台の紫外レーザーを

(2)

96 研究系及び研究施設の現状

組み合わせた紫外−赤外−紫外3重共鳴分光を新たに開発し、フェノール・アンモニアクラスターに適用して反応 生成物の赤外スペクトルの測定に初めて成功した。赤外スペクトルは反応生成物が水素原子化アンモニアクラス

ターNH4·(NH3)n–1であることを明瞭に示しており、このような酸・塩基で構成される溶媒和クラスターでもプロト

ン移動に加えてラジカル開裂が起こることを示すことができた。典型的な溶液内反応であるプロトン移動反応と気 相反応の代表であるラジカル開裂が同じクラスター内で競合することは、溶媒和クラスターが溶液と気相の性質を 併せ持つことを示しているものと考えている。

b) イオン化検出赤外分光法は独自に開発した高感度赤外分光法であり波長可変赤外レーザーで生じる振動励起分子 を紫外レーザーで選択的にイオン化して検出する二重共鳴分光法である。赤外遷移をイオン検出すること及びバッ クグラウンドフリーであることから極めて高い検出感度を有し、試料濃度が希薄な超音速ジェット中で吸収係数が 極めて小さな高次倍音を明瞭に観測できる。この方法により明らかにした高振動フェノール分子の段階的緩和機構

(T ier Model)の展開として2個のOHを有するベンゼン誘導体・カテコールに本分光法を適用し、意図的に振動数が 近接した振動準位を導入することに依る分子内振動緩和の変化を調べた。この分子の場合、一方のOH基は分子内水 素結合により振動数がもう一方の自由なOH基より僅かに低下している。観測した線巾によると高振動状態での緩 和も両者で大きく異なっており、分子内水素結合の有無が緩和速度に大きく影響を与えている事を明らかにした。 このメカニズムについて検討している。

c) パルス電場イオン化光電子分光法(PF I-Z E K E 法)は高励起リュードベリ状態を電場イオン化して検出する高分解能 光電子分光法であり、カチオンの振動分光を行う優れた手段である。我々は中性リュードベリ状態を検出する特性 に着目して装置の大幅な簡易化・汎用化を実現し、従来の光電子分光では困難な大きな分子カチオンの振動分光を 行ってきた。本年はソフトモード間の相互作用解明を意図し、メチル基内部回転運動と分子間振動という2つの大 振幅振動を有する m-cresol-H2O に本分光法を適用し、カチオンクラスターでの低振動大振幅振動を観測した。観測 した非調和かつ複雑なバンド構造をメチル基内部回転運動と分子間伸縮振動による結合音として解析し、m-cresol 水和クラスターに関してはこれらの大振幅振動間の相互作用が極めて小さいことを明らかにした。これはメチル基 と水酸基の空間的な隔たりに加え、両者が面外と面内という異なる対称性に属する為と考えられる。今後、内部回転 と面外変角分子間振動の相互作用などに関して展開したい。

d) 2台のレーザーを用いる分光法は回折限界を凌駕する空間分解能(超解像)に展開できる。即ち、1色のレーザーを 集光した際に出来る像は回折限界で制限されているが、2つのレーザー光の重なり部分を取り出せば回折限界以下 の空間分解能が得られるはずである。オリンパス光学・池滝慶記主任研究員、千葉大学工学部・尾松孝茂助教授との 共同研究により、このアイディアに基づく顕微分光実験装置を製作し(科技団独創的研究成果育成事業)、原理検証 実験に成功した。

B -1) 学術論文

K. SUZUKI, Y. EMURA, S. ISHIUCHI and M. FUJII, “Internal Methyl Group Rotation in o-Cresol Studied by Pulsed

Field Ionization – ZEKE Photoelectron Spectroscopy,” J. Electron Spectrosc. 108, 13 (2000).

K. SUZUKI, S. ISHIUCHI and M. FUJII, “Pulsed Field Ionization - ZEKE Spectroscopy of Cresoles and Their Aqueous

Complex: Internal Rotation of Methyl Group and Intermolecular Vibrations,” Faraday Discuss. 115, 229 (2000).

S. ISHIUCHI, M. SAEKI, M. SAKAI and M. FUJII, “IR Dip Spectra of Photochemical Reaction Products in a Phenol/ Ammonia Cluster Examination of Intracluster Hydrogen Transfer,” Chem. Phys. Lett. 322, 27 (2000).

(3)

研究系及び研究施設の現状 97 M. MITSUI, Y. OHSHIMA, S. ISHIUCHI, M. SAKAI and M. FUJII, “Structural Characterization of the Acridine–(H2O)n

(n = 1–3) Clusters by Fluorescence Dip Infrared Spectroscopy,” Chem. Phys. Lett. 317, 211 (2000).

M. MITSUI, Y. OHSHIMA, S. ISHIUCHI, M. SAKAI and M. FUJII, “Structure and Dynamics of 9(10H)-Acridone and Its Hydrated Clusters. II. Structural Characterization of Hydrogen-BondingvNetworks,” J. Phys. Chem. 104, 8649 (2000).

B -4) 招待講演

M. FUJII, “Structure of Solvated Naphthol Clusters Studied by IR-UV Double Resonance Spectroscopy and Ab Initio MO Calculations,” December 1999.

藤井正明, 「赤外レーザーによる高振動状態の観測と分子の結合切断」, レーザー学会第20回年次大会, アクロス福岡, 福 岡 , 2000 年 1 月 .

M. FUJII, “Pulsed Field Ionization - ZEKE Photoelectron Spectroscopy of Cresols and Their Aqueous Complex - Internal

Rotation of Methyl Group and Intermolecular Vibrations,” “Faraday Discussion 115 Molecular Photoionization,” University of York (U. K.), April 2000.

藤井正明, 「レーザー二重共鳴法による気相分子とクラスターの高感度赤外計測」, レーザー学会・レーザーによる超微量物 質計測技術専門委員会 , 岐阜羽島文化センター, 岐阜 , 2000年 11 月 .

M. FUJII, “Overtone Spectgroscopy of Jet-cooled Phenols Studied by Nonresonant Ionization Detected IR Spectroscopy—

Doorway in IVR,” 2000 International Chemical Congress of Pacific Basin Society (Pacifichem2000), Honolulu (U. S. A), December 2000.

M. FUJII, “Vibrational Study of Phenol/Naphthol Solvated Clusters by IR-UV Double Resonance Spectroscopy,” 2000 International Chemical Congress of Pacific Basin Society (Pacifichem2000), Honolulu (U. S. A.), December 2000.

B -5) 受賞、表彰

日本化学会進歩賞受賞(1992). 山下太郎学術奨励賞受賞(1992). 分子科学奨励森野基金(1996).

B -6) 学会および社会的活動 分子科学研究会・事務局 .

環太平洋化学会議(Pacifichem2000)シンポジウム主催者 .

C ) 研究活動の課題と展望

反応活性クラスターの研究で問題であった多量体クラスターの生成に関して、科研費により整備できた分子線・リフレクトロ ンマス分光用真空槽が稼働し、威力を発揮し始めた。今後、分子線の発生方法などを工夫して凝集系の性質と比較できる 程度の大きなクラスターの分光にも挑戦したい。クラスターに関するもう一つの課題は時間分解振動分光である。反応活性 クラスターの赤外スペクトルがナノ秒レーザーシステムで観測できるように成ってきたことをふまえ、ぜひ化学的に重要な溶 媒和クラスターの反応を実時間観測で観測できるようにしたい。このような2波長レーザー分光の発展の一環として、2波長レー ザーを用いる超解像レーザー蛍光顕微法の研究も、革新的技術開発研究(国民参加のミレニアムプロジェクト)に採択され

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98 研究系及び研究施設の現状

ることで新装置試作が可能となり、大きな進展を期待している。以上の状況で最大の問題はグループの規模が小さいことで あり、現在、助手の酒井誠君、博士研究員の佐伯盛久君・渡辺武史君、D3の石内俊一君がフル稼働している状態である。新 人の参加を心待ちにしている。

参照

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